日本ベルギー租税条約の改悪-年金受給者の煩雑な手続き(1)

現在の改正後日本ベルギー租税条約は、平成30(2018)年12月28日に公布及び告示(条約第17号及び外務省告示第422号)され、平成平成31(2019)年1月19日に効力が発生しています。外務省のHPに掲載されている条約の「概要」には、「主な内容(現行条約の全面改正)」として、配当・利子・使用料に対する源泉地国での課税を更に軽減又は免除 【第10条~第12条】などという耳障りの良いことが書いてありますが、実はベルギー年金受給者にとって極めて重要なことが、同HP掲載の条約の「説明書」の「二 条約の主要な内容」>「2 二重課税の回避のための規定」に、「退職年金等については、源泉地国において課税することができること(第17条)」と実にあっさり書かれています。これはどういうことかというと、ベルギー年金受給者にとって年金源泉地国とはベルギーに他なりませんから、ベルギー年金については、受給時にベルギ―で課税されるということを意味します

改正前の租税条約はどうなっていたかというと、その第18条は以下のように規定していました。

「第19条1の規定を留保して(*)、一方の締約国の居住者に対し過去の勤務につき支払われる退職年金その他これに類する報酬に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課すことができる」 (*)第19条は政府職員の派遣国での免税を規定

すなわち、旧条約では「一方の締約国」とはベルギー年金受給者にとって日本を指すことになりますので、ベルギー政府が、わが国在住のベルギー年金受給者に租税を課すことはできなかったということになります。なお、このような退職年金に係る源泉地国非課税の規定は、OECDモデル租税条約で採用されており、米英仏欄を初め我が国が締結するほとんどの国との租税条約で採用されています(例外的に日独条約では、源泉地国課税となっています)。

最近、多くの日本在住者かつベルギー年金を受給している方から、「ベルギーの税務申告書が送られてきた」という話が伝わってきており、「変だな」と感じていたところ、筆者のところにもついに2024年度の申告書の用紙が送られてきたので、改めて調べ直したところ、上記のような状況が判明した次第です。申告書はオランダ語で筆者もお手上げなので、現在、古巣のデロイト事務所に内容照会中です。上記規定からはベルギーでの課税は避けられないと考えます。デロイト事務所から何らかのリアクションがあれば、本稿第2段としてご報告したいと思います。

ところで、ベルギーでの課税が発生するとなれば、ベルギー年金は我が国所得税の課税対象(雑所得として申告)でもありますので、当然二重課税となります。この二重課税排除のために、所得税法上は外国税額控除制度が設けられていますが、やや専門的でもあり、一般の方が申告書を作成するには一定のハードルがあるのと、所得の多寡によっては、ベルギーでの租税の一部が控除されないという事態も想定されます(日本の確定申告での取扱いについては、本ブログで別途報告したいと考えています)。

それにしても思うのは、今まで日本で申告すれば済んでいたものを、わざわざベルギーでの課税権を認め、一方で日本のベルギー年金受給者に外国税額控除を適用させるというのは、現役世代ならともかく、年金受給世代に過重な負担を強いるものと言わざるを得ません。条約の改正を担当した外務省・財務省の担当官はベルギー政府にいわれるままだったのでしょうか? あるいは、年金受給者は自分のことではないとして、無関心だったのでしょうか?

はっきり申し上げて、平成30年改正の日本ベルギー租税条約は、退職年金に関する限り、改悪です。1日でも早く、旧条約の規定振りに戻すことを切に望みます。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です