中古マンション転売に係る仕入税額控除事件 ADW控訴審で国が逆転勝訴
中古マンション転売事業者の仕入税額控除の可否が争われた2件の裁判のうち、株式会社ムゲンエステート(ムゲン社)の控訴審判決(本年4月21日)では、消費税の更正処分については、東京地裁の判決を支持し、同処分は適法としてムゲン社の控訴を棄却しましたが、一方の過少申告加算税の賦課決定処分については、ムゲン社が、一審より、「税務当局は従前から、複数の事例で最終的な目的により用途区分の判定[注1]を行っており、副次的に収受する対価をその判定で考慮していない」と強く主張していたところ、「税務当局は、本件と争点を同一にする平成17年裁決、平成22年裁決、平成24年裁決において、用途区分を『課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの』であると主張して、これが是認されており、遅くとも平成17年頃には上記回答[注2]の見解を変更したことが窺われるが、税務当局として、従来の見解を変更したことを納税者に通知するなど、これが定着するよう必要な措置を講じるのが相当であったと解されるにもかかわらず、そのような措置を講じているとは認められない(下線筆者)」と判示し、ムゲン社の過少申告には「正当な理由」があるとして処分を取消しました。このことは、「取扱いを変更していない」旨を強く主張してきた国にとって、裁判所に「見解を変更したことが窺われる」と認定されたことで大きな痛手となった[注3]と思われます。
係争中のもう一方の株式会社エー・ディー・ワークス(ADW社)の一審判決では、「課税仕入れについては、仕入日に将来の賃料収入が確実に見込まれるというだけで直ちに共通対応課税仕入れに区分されるものと解すべきでない」という新たな考え方が示され(本Web2020年9月10日付記事参照)、ムゲン社のケースと異なり国側敗訴となったため控訴審判決の行方が注目されていたところ、本年7月29日、東京高裁(第16民事部・岩井伸晃裁判長)は、原判決を取消し、国の逆移転勝訴となる判決を下しました。東京高裁は、まず、原処分庁の更正処分について、「消費税法30条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上を生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当」という判断基準を示し、更正処分は適法と判断致しました。一方の賦課決定処分については、「平成9年賃貸マンション事例の存在(筆者注:下記[注2]の回答文書をいう)を踏まえても、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され一般に周知されていたことを認めるに足る的確な証拠はない以上、被控訴人(筆者注:ADW社)の主張に係る平成17年の前後における課税庁の取扱いの差異の有無については、本件全証拠によっても明らかではないといわざるを得ない(下線筆者)」と判示し、ムゲン社控訴審判決とは全く正反対の判断が下されました[注4]。
更正処分についての判断の是非は措くとして、筆者が疑問に思うのは、先の平成9年の回答文書に対する評価の違いです。ムゲン社の事案でもADW社の事案でもこの文書は証拠として裁判所に提出されており、同じ東京高裁にて検討されたにもかかわらず、180度異なる結論となりました。なぜ、このように判断が分かれたのか、そして、司法の最終的な判断はどうなるのかについて気になるところですが、ムゲン社のケースは、国側が賦課決定処分取消しについて最高裁に上告受理申立てを行ったとのことなので、最終的な結論は最高裁の判断を待つこととなりました。一方のADW社も最高裁に上告した[注5]とのことであり、いよいよ両事件の最終判断は最高裁に委ねられる段階に入ったことになります。
[注1]建物取得費用を仕入税額控除する際、個別対応方式を採用する場合に、①課税売上対応の課税仕入れ、②非課税売上対応の課税仕入れ、③共通売上対応の課税仕入れのいずれかに区分することをいう。
[注2]東京国税局が、平成9年頃、下級行政機関に対し、賃貸中マンション購入費用事例について「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分すると回答していたことを指す。
[注3]T&Amaster No.881 2021.5.3 13頁
[注4]T&Amaster No.893 2021.8.9 4頁
[注5]2021年8月23日 税のしるべ 電子版