元国税審判官による所得税法のColumn(No.7)-「収入金額」と「総収入金額」

「所得税法は難しい」。本稿では、所得税法上、一見同じことをいっているようで実は微妙に内容が異なる用語を見ていきます。今回は、個人の暦年の経済活動の結果流入する価値である「収入」について検討します。

法人税法の場合、内国法人の各事業年度の所得の計算上のプラスの要素として、『益金』という用語を用いますが、所得税法では、各年の所得の計算上のプラスの要素を『収入』と呼んでいます。そこで、所得税法36条1項は、収入金額について、以下のように規定しています。

所得税法36条 《収入金額》第1項 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする(下線筆者)。

条文中まず注意すべきは、収入金額について、下線を引いた「別段の定めのあるもの」については、特別の取扱いを採用している点です(これについては後述します)。次に注意すべきは、条文上、「収入金額」と「総収入金額」の用語を使い分けている点です。この2つの区分は、条文上明確に定義されていないものの、10種類の所得分類に関係があります。すなわち、収入との対応関係が認められる必要経費を収入から控除するという計算構造を持つ不動産所得、事業所得、山林所得等及び雑所得の場合は、「総収入金額」という用語を用います。また、「必要経費」という用語は馴染まないものの、収入に対応し収入から控除される支出が観念される譲渡所得及び一時所得も同じ「総収入金額」のカテゴリーに入ります。他方、例外はあるものの、一般的に収入から控除される支出が観念しづらい利子所得配当所得、給与所得[1]及び退職所得の場合は「収入金額」といいます。

包括的所得概念(本稿第3回参照)を採用する所得税法において、「収入金額」と「総収入金額」とは、外部から流入した経済的価値を指すという見方が有力です。ここでいう経済的価値は、必ずしも契約上の対価ではなく、客観的な交換価値、すなわち時価で評価されるものをいうとされています。

所得税法36条1項の括弧書きは、上記のとおり、「(収入すべき金額は)金銭以外の物又は権利その他の経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額[2](とする)」と規定しています。したがって、「収入すべき金額」とは、その年中に現金ないしその等価物によって収受された場合だけでなく、将来現金ないしその等価物を収受することが確実な売掛金や未収入金といった権利も含まれることになります(権利確定主義。本稿第2回~第6回参照)。租税法において、「収入金額」及び「総収入金額」に含まれるのは、あくまで法律上の権利として確定している債権[3](の流入)に限られるということになります[4]

なお、所得税法上の「収入すべき金額」には、その収入の起因となった行為が適法であったかどうかは問われません(所基通36-1)。すなわち、違法な所得も税務上は所得に変わりがなく、ここにも包括所得概念の考え方を認めることができます(違法な所得については、本稿第5回利息制限法制限超過利息事件を参照)。

それでは、「収入すべき金額」に含まれる経済的な利益とは何か、所得税法基本通達36-15は、以下のように具体的に例示しています。

  1. 物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益
    • 販売業者等が広告宣伝用資産の譲渡を受けた場合(所基通36-18)
    • 広告宣伝のための賞品の評価(所基通36-20)
    • 使用人等が使用者から受ける表彰金品や記念品、自社の商品、製品その他の利益(所基通36-21から同36-26まで)
    • 使用人等が使用者から受ける食事、商品、製品等の評価(所基通36-36から同36-39まで)
  2. 土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
    • 使用人等が使用者から受ける住宅等の賃貸料相当額の利益(所基通36-40から同36-48まで)
  3. 金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益
    • 使用人等が使用者から受ける利息相当額の利益及びその評価(所基通36-28、同36-49)
  4. (2)及び(3)以外の用益の提供を無償又は低い対価で受けた場合におけるその用益について通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
    • 使用人等が使用者から受ける用益の提供及びその評価(所基通36-29、同36-50)
  5. 買掛金その他の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額または自己の債務を他人が負担した場合における当該負担した金額に相当する利益
    • 債務免除益(所法44の2②、所基通44の2-1

[1] ただし、昭和62年の税制改正で、特定の支出の負担を余儀なくされるサラリーマンの負担を考慮し、給与所得者についても確定申告への道を拓くとする趣旨で、「給与所得者の特定支出控除」の制度が導入された。この制度により、収入に対応する実額経費の一部の控除が認められる。

[2] 租税法で一般に用いられる「価額」の用語は、客観的交換価値すなわち時価をいうものと解される。

[3] ここでいう債権の金額についても、客観的な交換価値として評価されるものであることはいうまでもない。

[4] したがって、例えば、時の経過とともに発生が認識される未収利息は、支払期日が到来していない限り債権として成立していないため、税務上収入に計上されることはないであろう。

(文責) 税理士・公認会計士 霞 晴久

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